第22話「初回のランチデート」

心の底からワクワクして待ったデートの日
朝から晴れて、とても気持ちのいい天気だった。

この日をワクワクして待っていたけれど、今までのように
浮かれるわけでもなく、気合いが入るのでもなく、ただただ楽しい
何をしていても楽しいのだ。

こんな気持ちも初めてだな…そんなことを思いながら待ち合わせ場所に向かう。

彼女と初めてのデートとなる今日はランチデート
お店を決めるときに、和・洋・中のどれがいいか彼女の希望を聞いたら
お店をいくつか選び、候補を送って選んでもらう
彼女が選んだのは、イタリアンのお店の明るいテラス席だった。

実際に行ってみると彼女のイメージにぴったりだった

なんか彼女らしい…こんなところにも人柄は表れるのかなぁ
晴れて暖かい日でよかったな…そんなことを思いながら待っていると
時間よりも早くニコニコしながら彼女は現れた。

希望していたテラス席に案内をされ、腰を落ち着けた彼女は本当に嬉しそうで
幸せそうだった、そんな彼女の姿をみて、ここはおしゃれだけど決して高級な
わけでもなく普通のお店なのに…こんなに喜んでくれるなんて…自分も嬉しさが
こみあげてくるのを感じた。

そしてやっぱり、縁側の陽だまりでお茶を飲む夫婦の姿がふと思い浮かんだ。

彼女に会うのは今日で2回目だけれど、特に気遣って話さなければ…とか
会話が途切れたら気まずい…とかいう雰囲気ではなく静かに落ち着いて会話は
進んでいき、共通の趣味でもある読書の話題になった。

どんな本を読んでいるのか、どんなジャンルが好きなのかを聞いてみると
推理小説、探偵小説、歴史小説、エッセイまで何でも読んでいるが共通していたのは
彼女が読むものには、人情があり、心の繋がりがあり、人が人を思う温かさがある。
本はその人が選んで読むもの、読む本にはその人が表れるという
彼女も温かくて優しい人なのだろう。

なかでも印象深かったのが、彼女が好きという探偵小説の主人公は頭も良いがクールで
割り切っていて人情味のかけらもないような人だが、その人が手がける事件には
さまざまな人間模様があって、絡み合った紐を解いていくと心の繋がりがある
クールといわれる主人公だが、細かいことも見逃さず、誰よりも人の心を読める温かい人
と言っていたことだった。

自分も、その本を読んだことがあったがトリックが意外で謎が解かれていくのが面白くて
そんな風に感じたことはなかったので新鮮だった
やっぱり彼女は優しくて温かい、一人一人の心の動きを見て、思いを大切にできる人だ
そして、控えめではあるがしっかりと自分の意見を持ち言うことのできる人だ
自分の中で、また彼女の存在が大きくなった。

時間は瞬く間に過ぎていき、まだまだ一緒にいたいが初回のデートから
そうそう時間を取らせるわけにはいかない…ということで駅までお送りする
ことにした。

駅までの道を並んで歩きながら、とても楽しかった…また会いたいなぁ…
そんなことを考えているうちに駅についてしまった。

今日のお礼を言って、あと何を言おうか迷っていると彼女の方から
「今日は、私ばかりが話してしまってすみません。この次は
 いろいろとお話を聞かせてくださいね。ありがとうございました。」
そう言ってくれて、とても温かい気持ちになった。

心に灯をともしてもらったような気持ちになり、彼女が改札口の向こうに
行ってしまったあとも、しばらくその場に立ち尽くしたままだった。

帰り道、一人になってから「楽しい」が「温かい」に変わっていくのを
感じていた、今までにはない感情だった。

story by 桜結